CASE 01
バイオクリアーマトリックスシステム(臼歯用)の臨床
わしの歯科クリニック 鷲野 崇 先生
臼歯の隣接面を含む窩洞(Ⅱ級窩洞)へのコンポジットレジン修復を成功に導くためには、臨床的に使用しやすいコンタクトマトリックス、ウェッジ、コンタクトリングといったマトリックスシステムを選択し、それらを上手に使用することが重要となる。これまで各社から優れたマトリックスシステムが開発・販売されてきているが、その特徴は様々で、一長一短である。今回ご紹介するコンポジットレジン隣接面修復用マトリックスである「バイオクリアーマトリックスシステム(臼歯用)」は、大変扱いやすく臨床のクオリティを高めてくれるのに役立つ。
以下に、臼歯のⅡ級修復におけるマトリックスシステムそれぞれの役割、求められる要件をまとめつつ、「バイオクリアーマトリックスシステム(臼歯用)」の優れた特徴を述べたい。
コンタクトマトリックスについて
隣接面に充塡するコンポジットレジンが隣在歯とくっつかないために、コンタクトマトリックスを設置する必要がある。コンタクトマトリックスに求められる要件として、以下のような点が挙げられる。
- 厚さが可及的に薄いこと
- 挿入しやすいこと
- マージン部歯質に適合しやすいこと
- 歯の特有なカントゥア曲線が再現しやすいこと
- ピンセットで把持しやすいこと
「バイオクリアーマトリックスシステム(臼歯用)」のバイオクリアーマトリックスBiofit HDは、予め臼歯特有の豊隆が付与された“臼歯専用”のコンタクトマトリックスであり、設置してしまえばコンポジットレジンを流し込むだけで美しい臼歯の隣接面形態が再現できる(図1)。
また、プラスティック製であるため、光が届きやすいという利点がある。従来のプラスティック製のコンタクトマトリックスはコシが弱く、隣接面への挿入する際に曲がってしまい、いまいちスムーズな挿入がしにくいという欠点があったが、本バイオクリアーマトリックスBiofit HDは75μmという薄さでありながらも十分なコシがあるのが特徴である。また、ポジショニングタブが付与されているためピンセットでの把持もしやすく、隣接面への挿入が容易になるよう工夫がされている(図2)。
図1
図2
ウェッジについて
コンタクトマトリックスを歯頚部歯面に密着させ、コンポジットレジンが歯頚部にはみ出るのを避けるため、ウェッジの使用は必須である。
「バイオクリアーマトリックスシステム(臼歯用)」のダイヤモンドウェッジは、ウェッジ先端部にダイヤモンド状の切れ込みが設計されており、歯間部への挿入時にはこの切れ込みが閉じて容易に挿入できるようになっている(図3)。また、挿入後には変形した切れ込みの圧力が解放されるため、ウェッジが歯間部にしっかりと安定するよう工夫がされており、大変よく考えられた設計であると感じる。
図3
コンタクトリングについて
隣在歯とのコンタクトが失われている場合、コンタクトマトリックスを歯質に密着させて把持し、コンタクトマトリックスの厚み分を補償して充塡をするためにコンタクトリングで歯間部を離開する。
本ツインリングは、 確実に歯にセット出来る操作性とピタっとフィットする独自の形状を持ったリングである(図4)。
図4
症例
術前(図5、6)。
防湿のためラバーダムを設置する(図7)。口腔内には唾液が存在しており、修復窩洞に唾液が付着することは、明らかにコンポジットレジンとの接着力を減少させるため、舌や唾液が窩洞に触れないようにラバーダムを設置することは重要である。また、より性質が悪く、触知しにくい外来性の水分は「湿気」である。実験室、臨床の両環境下において、水分は様々な方向から接着材の劣化に影響を与え得ることが示されているため、「湿気」をコントロールすることは、確実な接着処理を行うために重要である。隣接面部にバイオクリアーマトリックスBiofit HDを挿入する(図8)。
設置が完了したら、隣接面部で歯質とマトリックスの間にギャップができていないかを慎重に確認する。
図5
図6
図7
図8
バイオクリアーマトリックスBiofit HDを隣接面部に挿入後、ダイヤモンドウェッジを下部鼓形空隙へ挿入し、マトリックスを歯質に密着させる。ダイヤモンドウェッジは先端にダイヤモンド状にカットされた空隙があり、ウェッジを歯間部に挿入する際にこの空隙がわずかに伸縮するよう設計されているため、挿入が容易に行える(図9)。
ウェッジは、マトリックスを歯頚部歯面に密着させることを目的として使用するため、歯間を離開させるほど強く挿入する必要はない。
図9 バイオクリアー ダイヤモンドウェッジは、歯間部への挿入時に効果的に閉じ、挿入後はウェッジが開放して、隣接面に密着する。
その後、ツインリングを設置し、コンタクトを離開させる(図10)。
接着材を窩洞の隅々まで丁寧に塗布する(図11)。
バイオクリアーマトリックスBiofit HDに沿うようにフロアブルレジンを流し込み(図12)、光照射を行っているところ(図13)。
透明プラスティックバイオクリアーマトリックスBiofit HDを歯頚部に適合させ、歯頚部からの立ち上がりをフロアブルレジンで付与している。このとき、最もクリティカルなマージン部にはギャップをつくらないようハイフロータイプのフロアブルレジンを使用するのが肝であると考えている。
バイオクリアーマトリックスBiofit HDを外したところ(図14)。
臼歯特有の美しい曲線が再現されている(図15)。
あとはⅠ級修復の充塡法に準じて、コンポジットレジンを積層充塡していく(図16、17)。
充塡後、研磨を行っているところ(図18)。
隣接面の研磨は、挿入がしやすく、片手で操作ができるコンタックEZ修復用ストリップを用いて行っている。筆者は特に、厚さ0.05mmの片側ウルトラファインダイヤのグレーを隣接面の仕上げ研磨として好んで使用している。
術後(図19)。
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19