CASE 05

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バイオクリアーマトリックスシステム(前歯用)の臨床

バイオクリアーマトリックスを用いた
正中離開症例への対応方法

秋本歯科診療所 秋本 尚武 先生

コンポジットレジン修復のためのマトリックスシステムは、これまでに臼歯修復用マトリックスシステムとして各メーカーから数多く市販されてきた。現在ではあらかじめ豊隆が付与されたマトリックスが広く用いられている。このマトリックスそしてウェッジとリングを併用することで、臼歯隣接面修復においても比較的容易に適切な接触点の回復と隣接面形態を再現したコンポジットレジン修復が可能になった。

一方で前歯の隣接面修復においては、この豊隆のついた臼歯用マトリックスを利用し隣接面の解剖学的形態を付与することが多い。しかし、コンポジットレジンによる前歯部隣接面修復では、歯頚部からの立ち上がりや歯間鼓形空隙(下部鼓形空隙)の形態付与と調整が難しく、豊隆のついたマトリックスを用いてもなかなか容易には修復できなかった。

今回紹介するコンポジットレジン隣接面修復用マトリックスである「バイオクリアーマトリックスシステム(前歯用)」は、米国ワシントン州タコマ開業のDr. David Clarkにより考案された。バイオクリアーマトリックスとダイヤモンドウェッジを用いるシステムで、前歯部隣接面う蝕や歯間離開などの症例が容易に修復できる。マトリックスは症例により使い分けられるように、3級、4級修復などの前歯用として5種類、そして歯間離開用として4種類が用意されている。マトリックスの特徴は、歯頚部からの立ち上がりとそれに続く豊隆であり、「マトリックス歯頚部弯曲(cervical curvature)」と表現されている。2015年秋シアトルでのセミナー受講時、Dr. Clarkはこの豊隆のことを「Hip !」と盛んに言っていた。Dr. Clarkが「日本語ではなんというんだ?」という問いに、一緒に参加していた日本人が「ケツ!」などど下品な日本語を教えていたのを思い出す。さて、このHipの形態を各症例に合わせ適切に選択することで、歯間乳頭の立ち上がりが得られ、ブラックトライアングルのない隣接面修復を簡単に行うことができるようになっている。歯間乳頭の高さに合わせてマトリックスをトリミングすると、歯肉溝にマトリックスを挿入後しっかりと安定する。また正中離開の症例では同じ形態のマトリックスを左右同時に装着することで、左右の形態のバランスを調整しながらコンポジットレジンを充填することができる。バイオクリアーマトリックスは前歯の解剖学的形態を再現しており、歯頚部からの立ち上がりの形態はこれまでのマトリックスにはない特徴になっている。今回は、上顎正中離開の症例でその使用方法を解説する。

図1 術前(正面観)上顎正中離開。

図2 バイオクリアー染色液によるプラークの染め出し。

図3 水洗。

図4 隣接面にプラーク付着が認められる。

図5 エアーフロー(エアーフローマスター 松風)による歯面清掃。

図6 歯面清掃後。

図7 コンタックEZによる隣接面の研削。

図8 バイオクリアーマトリックス前歯用のDC201歯間離開用を選択する。歯肉側辺縁部をハサミでV字型にトリミングする。

図9 マトリックスを試適する。

図10 セレクトHVエッチによりエナメル質のエッチングを行う。

図11 15秒後に水洗を十分に行う。

図12 エアーブロー。

図13 オールボンドユニバーサルをミキシングウェルに1滴採取。

図14 被着面にオールボンドユニバーサルをマイクロブラシにより10-15秒間擦りながら塗布。

図15 10秒以上エアーブローを行い溶媒を十分に揮発させる。

図16 マトリックスを装着する。

図17 10秒間光照射を行い、オールボンドユニバーサルを重合する。

図18 フロアブルコンポジットレジン エリートフロにより左右中切歯の歯頚部から立ち上がりの部分(歯頚部弯曲部分)まで充填する。

図19 光照射を十分に行う。

図20 バイオクリアーダイヤモンドウェッジミディアム(オレンジ)を挿入し、マトリックスの保持と歯間離開を行う。

図21 エリートフロにより右側中切歯の切縁付近まで充填する。

図22 探針により形態付与を行う。

図23 光照射により十分に光重合を行う。

図24 左側中切歯も同様にエリートフロにより切縁付近まで充填する。

図25 光重合。

図26 ウェッジおよびマトリックスを除去する。

図27 超微粒子ダイヤモンドポイント(SF102R 松風)により大まかな形態修正を行う。

図28 超微粒子ダイヤモンドポイント(SF416 松風)により細かな形態修正
を行う。

図29 研磨用ブラシ(オクルーブラシKerr)により研磨を行う。

図30 術直後。

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